山崎ナオコーラ『偽姉妹』
あらすじ
主人公は35才のシングルマザー、正子。
正子は宝クジで3億円を当てて得たお金で建てた「屋根だけの家」で、血の繋がった姉妹である「衿子」と「園子」と暮らしているのですが、物語はそんな3姉妹(+子供1人)の家に、正子の友人「あぐり」と「百夜」が遊びに来るところから始まります。
衿子は公務員、園子は看護師で、見た目でいうと地味で冴えないけれど、堅実に生活を送るタイプ。
そして、百夜は派遣社員、あぐりはパン工場勤務(ライン作業)で、美人だけれど世間的には恵まれているとはいえません。
しかしながら正子自身は、血の繋がった衿子と園子より、百夜とあぐりのほうが気が合いますし、一緒にいて居心地の良さを感じていました。
いつのまにか「屋根だけの家」に居着いてしまった百夜とあぐりに、不満を募らせる衿子と園子。決定的な出来事として、不倫をしていた百夜について、園子が一緒に暮らしたくないと名言するシーンがあります。
普通なら、血の繋がった姉妹である園子の意思を尊重し、百夜に出て行ってもらうと思うのですが、正子は百夜を選びます。
「私は、不倫をしていたという理由で百夜に出ていってもらうことは絶対にしない」
「じゃあ、私が出て行く」
園子は言った。
「悪いけど、そうしてもらえる?」
(114p)
その後を追うように衿子も出て行き、正子はあぐりと百夜に「姉妹ユニット」を組むことを提案するのでした。
感想
この小説は、主人公が「阿佐ヶ谷姉妹」や「叶姉妹」のように姉妹ユニットを作り、みんなで幸せに暮らす現代の家族のあり方を捉えた一見愉快なお話であると同時に、「血の繋がった姉妹」と縁を切る(姉妹を辞める)恐ろしい話でもあります。
血の繋がりほど厄介なものはありません。実の兄弟だから。実の両親だから。家族なら、私達は良いことも嫌なことも運命共同体のように分かち合うのが義務だといつのまにか刷り込まれているのではないでしょうか。
正子は自分勝手かもしれないけれど、勇気のある人です。そもそも、気があわない者同士なのに、なぜ「家族だから許し合う」必要があるのでしょう?
この小説を読むことで、私は自分自身が価値観にがんじがらめになっていたことに気づかされました。
まだまだ一部の人にしか浸透していない正子のような「家族の作り方」を物語として成立させた山崎ナオコーラさんは、本当にすごいと思います。