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春見朔子『そういう生き物』

千景とまゆ子。高校の同級生である二人は、10年ぶりに偶然再会し、思いがけず一緒に暮らし始める。
薬剤師の千景は、とある男との逢瀬を重ねながらも、定年退職した大学の恩師「先生」に心を寄せている。
叔母のスナックでアルバイトをするまゆ子は、突然家に尋ねてきた「先生」の孫とカタツムリの飼育を巡り交流を深めつつ、千景をそっと見守る。
すれ違いの生活ながら、長く離れていた二人の距離は徐々に縮まっていく。そんな中、高校時代の友人の結婚式が近づき、二人はかつての自分たちの深い関係と秘密とに改めて向き合うことになる。そして……?
一番近くにいるのに、わかり合えない二人。なのにもかかわらず、寄り添う二人。
愛と性、心と体の狭間で揺れ動く孤独な心象風景を、瑞々しい文体で描き出す、第40回すばる文学賞受賞作。

 

10年ぶりの再会からなぜか一緒に暮らすことになってしまった千景とまゆ子。読み進めていくと、高校生の頃に二人がつきあっていたと思わせる言葉が並び、読者を戸惑わせ、終盤には想像もしていなかった場所へ連れて行ってくれる。デビュー作にして傑作。

 

エピソードの一つ一つがこのタイトルのためにあるように思えてならない。人間という個体に生まれてしまった以上嫌でも性別を持たなければならないことや、大好きなのに性愛に結びつかないまま相手を傷つけてしまうことのままならなさ、生きづらさを突きつけられたような。

 

 

性的マイノリティーを題材にした作品がここ2、3年で増えている印象ですが、LGBTQの単語でくくるのもどうなんでしょうね。世の中が推奨する恋愛にも、LGBTQにも該当しない、境界や制約を排除した触れ合いを描いた作品がもっと書かれるべきだと思いますし、本作はその条件を満たしています。

 

そういう生き物

そういう生き物