CLEAN YURU BOOK

本のあらすじ、感想を書き留めるブログ

島本理生『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』

特別じゃないわたしたちの、特別な日常
『ナラタージュ』『Red』の著者が描く、新たな恋愛小説。

「どこへ行きましょうか」 「どこへ行くか」
30歳の私は、あの日、夕方の春の海辺で、どこへ行けるか分からない恋を始めた。限られた時間の中にいる男女の行く末を描いた、渾身の恋愛小説。
年上のエンジニア・椎名さんと仕事先で出会った知世。美味しいものを一緒に食べる関係から、少しずつ距離が近くなっていったある日、椎名さんは衝撃の告白をするが……。

(Amazonより)

 

ワーカホリック気味な主人公と、ある問題を抱えた男性の恋愛小説。食事、旅行のシーンを通して、人との距離間の取り方、生き方を模索してる姿が印象に残りました。

 

島本理生さんといえば、デビュー作から一貫して恋愛小説を書かれていて、主人公の性格が控えめなところは今回も同じ。ただ食事と旅行シーンがとても多いので、ガイドブックとしても楽しめるし、主人公の友達二人がとてもいい子達で、どちらかというとこっちに感情移入しました。

 

わたしたちは銀のフォークと薬を手にして

わたしたちは銀のフォークと薬を手にして

 

 



米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』

小市民を目指す小鳩君と小山内さんのコミカル探偵物語

小鳩くんと小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校1年生。きょうも2人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに2人の前には頻繁に奇妙な謎が現れる。消えたポシェット、意図不明の2枚の絵、おいしいココアの謎、テスト中に割れたガラス瓶。名探偵面をして目立ちたくないというのに、気がつけば謎を解く必要に迫られてしまう小鳩くんは果たして小市民の星を掴み取ることができるのか? 新鋭が放つライトな探偵物語。(Amazonより)

 

米澤穂信さんは「青春小説の書き手」として評価されている方で、本書は複数あるシリーズの中の一つになります。シリーズもので『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』と続くのですが、題名だけでときめいてしまうのは私だけでしょうか。

 

本格というよりも、日常に潜む謎や事件を論理的に解決するライトミステリですいすい読めましたし、主人公二人の過去は、まだ明らかにされていない部分もあるので、続きがとても気になりました。

 

強いて難を言うなら、主人公二人が主張する「小市民を目指す」という考え方が、少し恥ずかしいし中二病ぽいところ。けどまあ、それもご愛嬌というか、現役中高生のときに呼んでいたらどハマりしてただろうな。

 

 

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 

 

 

 

 

 

川上未映子×穂村弘『たましいのふたりごと』

作家・詩人として日本文学の最前線を疾走する川上未映子と当代一の人気歌人穂村弘が、人生のワンダーを求めて、恋愛・創作・生活等々を縦横無尽に語りつくす!

(Amazonより)

この本を読む直前に、川上未映子の、村上春樹へのインタビュー集を読んでいて、なんて話し上手、聞き上手な方なんだろうなあとおもっていましたが、この本もやはり期待を裏切りませんでした。

 

村上春樹を相手にしていたときは、彼女がインタビュアーという立ち位置だったので、いかに話を聞き出すか、村上作品をインタビューの中で読み解いていくか、が大事で肩に力が入っている印象を受けました。

 

ただ今回は、あらかじめきめておいたキーワードにそって二人が話をするという形式なので、もう少しフランクというか、お兄さんと好きなものを見せ合うような親密さを感じます。

 

お題とされている75のキーワードは、おめかし、香水、永遠、お別れ、眠り、死、など…。

Amazonでは、一つのお題に長くても5ページ、短くて2ページくらいしか、割いていないので、トークが尻切れとんぼで終わってしまっている、と批判されていましたが、特にそういう風には感じませんでした。

ただ、話題が文学、思想というよりも日常生活よりなので、物足りないと感じた人はいたかもしれません。

 

たましいのふたりごと (単行本)

たましいのふたりごと (単行本)

 

 

 

スティーブン・チョボスキー『ウォール・フラワー』

【あらすじ】

チャーリーは15歳。美人な姉と、フットボール選手の兄とはそれなりに仲がいい。高校で知り合ったパトリックとサムは初めて心から愛した親友だった…。

大人も子供も傷つき、傷つけながら人生を生きる。最高にクールな青春小説。

 

アメリカの10代の子達を対象にした「YA小説」というジャンルが私は結構好きなのですが、この作品は花丸満点。
エマ・ワトソンエズラ・ミラーが出ている映画もよかったですが、原作マジで最高でした。

 

物語を通して描かれるテーマの一つに「暴力」があります。

物理的な暴力であれ、性的な暴力であれ、チャーリーを取り巻く家族、友人たちは、かならず何かしらの暴力の被害者であり、加害者です。

例えばチャーリーの姉は、妊娠したことを彼氏に伝えると、突き放され中絶を余儀なくされます。また、親友のパトリックは、恋人だったブラッドに「ホモ野郎」と罵られ、殴りあいの喧嘩になってしまいます。チャーリーは彼女たちに寄り添い、ハグをし、話をするのですが、実は主人公のチャーリー自身も例外ではなく、精神科にかかるくらいの、ある過去が隠されているのでした。

 

この小説は、なぜチャーリーがこれほどまで不安定な子なのか、人と関係性を築くのが下手なのかがカギとなっていますが、裏を返せば、チャーリーが自分自身で、また、周囲の人間の力を借りて答えを見つけ、乗り越える話でもあります。

そして、読者はチャーリーの書く手紙を通して、その過程である1年間を追体験することができるのです。

 

 

ウォールフラワー (集英社文庫)

ウォールフラワー (集英社文庫)

 

 

 

 

三浦しをん『本屋さんで待ちあわせ』

【内容】

1日の大半を本や漫画を読んで過ごしている作者の、新聞や雑誌で掲載された文章をまとめた書評集。

 

本が好きで好きで仕方がないんだろうな、と思う前のめりな文章。あらすじや話の構造にせまるというよりも、どれだけその本が自分の心を揺さぶったか、どれだけ人間を描けているか、にポイントをおいてる印象を受けます。

 

作者もまえがきで「『好きだー!』『おもしろいっ』という咆哮になっちゃってる」と書いていますが、本当にそんな感じ。

 

じゃあ書評として成り立ってないんじゃないの?と聞かれると、頷くしかないのですが、三浦しをんの場合、もうお家芸というか、それが持ち味で小説やエッセイを書く人だから、読み物として充分面白いんですよね。

 

取り上げているのは、小説だけでなくノンフィクションや古典芸能など多岐にわたります。

いろんなジャンルを読みたいと考えている方は参考にできるのではないでしょうか。

 

 

本屋さんで待ち合わせ

本屋さんで待ち合わせ

 

 



 

 

村上春樹・川上未映子『みみずくは黄昏に飛び立つ』

【内容】

川上未映子から村上春樹への、11時間にのぼる超ロングインタビュー集。

最新作『騎士団長殺し』の誕生秘話だけでなく、小説を書くことの方法や極意、自身が得た名声や今後について、これでもかと語りつくす、完全保存版

 

後書きで、思わず村上春樹が「冷や汗をかいてしまうこともしばしばだった」と書いてしまうくらい、鋭い質問がバンバン投げられます。

 

まずフェミニズムについて、一部抜粋。

川上「女の人が性的な役割を全うしていくだけの存在になってしまうことが多いということなんです。物語とか、男性とか井戸とか、そういったものに対しては、ものすごく惜しみなく注がれている想像力が、女の人との関係においては発揮されていない。女の人は、女の人自体として存在できない。」

(P246)

 

あの村上春樹にここまで突っ込んだ質問をよくできるな、と思いますが、村上春樹自体は割と冷静に「そう言われてみればそうかもしれない」「たまたまのことじゃないかな」と返しつつ、悪気はないという姿勢を貫いていたので、読者の私からすれば、「とぼけやがって〜(イライラ)」という感じでした。

 

他にも「『俺もこんな世界的な作家になったわー』みたいな実感はどうですか?」とか、「『俺ってやっぱすごかったんだなー、とくべつだったんだなー』みたいな気持ち、ない?これはありますでしょ、少しくらい笑」みたいな質問までしていて、正直笑えたし、川上未映子さんの人柄なのか、性格なのか、随所で鋭いことを聞いているはずなのにカドがたってなくて、とても読み応えのあるインタビュー集になっています。

 

 

 

 

 

 

 

湊かなえ『リバース』

【あらすじ】

主人公、深瀬和久は事務機器の営業を仕事とするさえないサラリーマン。唯一の特技は美味しいコーヒーを淹れること。行きつけの喫茶店で越智美穂子という女性と出会い日常に華が咲きはじめた矢先にある出来事が起こる。

『深瀬和久は人殺しだ』と書かれた告発文が彼女のもとへ届いたのだ。手紙を突きつけられた深瀬は、ある過去の出来事を話すことになる。

深瀬にとって、唯一の親友であり、大学の同期だった広沢由樹という男の死について。

 

いくつもの不幸な偶然と少しの悪意が重なった事故だった。少なくとも深瀬はそう思っていた。

しかし、今更三年前の出来事を掘り起こそうとしている人間がいる。旅行の参加者の中に、広沢を殺した人間がいるのではないかと、疑っている人間がいる。

どうにか事件を解決しようと動く深瀬に突きつけられる衝撃の事実、そして最後に明かされるどんでん返しとは?

藤原竜也主演でドラマ化された作品の原作。

 

ドラマを4話まで観た時点で先が気になりすぎて手にとってしまった。

藤原竜也が主演という時点でこの作品は何か起こりそうだと疑っていたけれど、読んで納得。

解説にも書いてあったけど、作者は編集部からお題を提示されて、結末から話を作り上げたみたいですね。

読者を最後にあっと言わせることには成功できていると思いますし、さすが人気作家だな、と言わざるを得ませんでした。

 

強いて難をいえば、この物語の鍵は、死んだ広瀬由樹がどういう人間だったのか?という点だけれど、少し書ききれていないなと感じました。

というのも、周囲の人間が「彼はこういう人間だった」「彼だったらこう思っていただろう」と第三者から語る広沢は沢山書かれていたけれど、結局彼自身が何かを語るシーンはほぼなかったから。

良くいえばミステリアス、悪くいえば何を考えているかわからないぼんやりしたキャラクターで終わってしまった。

 

といっても総じて面白かったです。

 

リバース (講談社文庫)

リバース (講談社文庫)