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本のあらすじ、感想を書き留めるブログ

恩田陸『猫と針』

同窓生男女5人が葬式帰りに集まった。小宴がはじまり、四方山話に花が咲くが、どこかぎこちない面々。誰かが席を外すと、残りの仲間は、憶測をめぐらし不在の人物について語り合う。やがて話題は、高校時代の不可解な事件へと及んだ…。15年前の事件の真相とは?そしてこの宴の本当の目的は?著者が初めて挑んだ密室心理サスペンス劇。

 

 

登場人物が男女5人だけの戯曲なんだけど、名前がみんな平凡(サトウ、タナカ、スズキ、タカハシ、ヤマダ)で、始めは見分けがつかず読みにくいと思いました。

ただ、第1場、第2場と進めていくと、キャラクターの輪郭がつかめてきて気にならなくなったし、さすがの恩田陸。しっかり面白かったです。

 

「その場にいない人の話をする」話と口上であるように、会話が見どころであるこの作品。『木曜組曲』が好きな方にオススメします。

 

猫と針(新潮文庫)

猫と針(新潮文庫)

 

 

 

又吉直樹『夜を乗り越える』

芸人で、芥川賞作家の又吉直樹が、少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」「人間とは何か」を考える。また、大ベストセラーとなった芥川賞受賞作『火花』の創作秘話を初公開するとともに、自らの著作についてそれぞれの想いを明かしていく。「負のキャラクター」を演じ続けていた少年が、文学に出会い、助けられ、いかに様々な夜を乗り越え生きてきたかを顧みる、著者初の新書。

 

アメトーークの読書芸人で又吉を見て興味を持ち、読み始めました。

 

なぜ本を読むのか?どう本を楽しめばいいのか?が真摯に書かれていて参考になります。

こんなに思慮深い人だったのか…、とちょっとびっくりしました。

『火花』も読んでみたいです。

 

夜を乗り越える(小学館よしもと新書)

夜を乗り越える(小学館よしもと新書)

 

 

 

 

恩田陸『タマゴマジック』

空から謎の卵が降り、赤い犬が宙に浮かぶ―。東北の中心・S市で起きた奇怪な出来事。 宇宙人襲来か、はたまた都市伝説か?恩田ワールドが東北で炸裂する。 仙台出身の著者が放つミステリー集 震災後の都市の苦悩を描く書き下ろし『魔術師2016』も収録。

 

関根家のシリーズ最新作、というだけで、恩田陸ファンからすればはずせない一冊だと思います。

 

元判事の関根多佳雄と、長男で現職判事の関根春が、S市(おそらく仙台市)で起きた謎を解き明かすミステリーですが、冒頭の「魔術師一九九九」から、間に「ブリキの卵」、「この世は少し不思議」を挟み、「魔術師二〇一六」で締めるという不思議な構成になっています。そもそも、それぞれの作品はまったく別の媒体に連載されていたのに、内容がシンクロしていると感じてまとめることにした、という経緯が冒険的ですごいです。

 

都市伝説というのは昔からあって、口裂け女だったり、「ファーストフードは猫の肉からできている」という噂だったり、内容は様々だけれど、どれも根本に存在するのは人間の不安な気持ちです。

S市に広まった数々の噂や都市伝説も、根本的には2011年に起きた震災が関係すると、この本は投げかけてきます。

あのとき、私達はとても非現実的で嘘見たいな事象に立ち会いました。けれど、残念なことに起きたことはすべて現実です。

そうすると、「ブリキの卵」というファンタジー的な小説に、あえて「この世は少し不思議」というエッセイを間に挟んだのもなんだか頷けるような気がするのです。

 

 

タマゴマジック

タマゴマジック

 

 

 

吉田篤弘『京都で考えた』

答えはいつもふたつある。

 吉田篤弘が、京都の街を歩きながら「本当にそうか?」と考えたこと。

 この街で考えたことを、これまでに何冊かの本に書いてきた。ただ、それらのほとんどは小説だったので、物語のどの部分が京都で考えたことであるかは判らない。いまこうして書き始めたこの本は小説ではなく、京都で考えたことをありのままに書こうという本である。――本文より(Amazonより)

 

 

私は京都出身で、住んでいるときは何も思いませんでしたが、年に数回帰省すると、他の県にはない空気を感じます。お寺や神社の佇まいであったり、山に囲まれた土地特有の気温の変化だったり、説明がつくものとつかないものが共存している。京都というのは、そういう街なんです。

吉田篤弘さんの書く小説は、読むとどこか日常の上に非日常のオブラートを重ねたような、不思議な気持ちにいつもさせられますが、京都からインスピレーションを得ているとこの本で語られていて、合点がいったのでした。

 

 

京都で考えた

京都で考えた

 

 



 

 

 

かつくら編集部『あの頃のBLの話をしよう [BLインタビュー集]』

熱に浮かされたようにBLを書き、作り、読んでいた私たち――
ボーイズラブという言葉が生まれたあの頃。
激変する業界の渦中にあった作家・編集者が語る、それぞれのBLファーストインパクト!

いまや当たりまえのように存在しているBL[ボーイズラブ]というジャンルにも
先行きなど何もわからなかった幼年期があり
作り手も受け手も熱に浮かされたように駆け続けた時期があった。
あの頃、作家はどのような衝撃を受け、あるいは情熱を持ってBLを創作したのか。
編集者は創作者や読者の思いをどうやって受け止めたのか。
稀有な作品を生み出し、他ジャンルでも活躍する才能を多く輩出するまでになった
BLというジャンルの黎明期を、渦中にあった作家、編集者が語りつくすBLインタビュー集!

(Amazonより)

 

 

よしながふみさん、 こだか和麻さんは、BLをそれなりに読む30オーバーの女なら一度は通ったことのある作家ではないでしょうか。

この本は漫画家だけでなく、BL黎明期に活躍した編集者にもインタビューしていて、興味深く読むことができました。

 

BLを描くエネルギー、BLを作るエネルギーに圧倒される一冊です。

 

 

あの頃のBLの話をしよう [BLインタビュー集]

あの頃のBLの話をしよう [BLインタビュー集]

 

 

 

きたみりゅうじ『夜明けに向かってコアダンプ』

偉人・変人が語り継がれるIT業界。でも、多くの人はごく平凡に、ごく普通の人々と、日々の仕事に追われています。じゃあそこには何のドラマもないのか?…これがそうでもない。
ささやかだからこそ「あるあるあるあるある」と首を縦にブンブン振っちゃうような体験談が埋まっています。「普通の人々による、様々な好プレーや珍プレー」を、4コマまんがを交えて紹介しよう。そんなWeb連載『きたみりゅうじの聞かせて珍プレー』(gihyo.jp掲載)が、一冊の本になりました。
ごくありふれた――だからこそ身近に感じる――投稿の数々。是非お楽しみいただければ幸いです。

(Amazonより)

 読者からの投稿によるエンジニアあるあるエピソードを漫画にした本。

私自身プログラマなので、いろいろ身につまされました。

新人の時って、予想もつかないような失敗をするよね…。

小説ばかりでなく、IT業界を取り扱った本も読まなければならないと思っていましたが、この本はとてもとっつきやすかったです。

 

 

 

山崎ナオコーラ『ネンレイズム/開かれた食器棚』

“おばあさん”になりたい、自称68歳の村崎さん、未来でなく“今”を生きたい紫さん、“徐々に”年をとりたいスカート男子・加藤くん。町の公民館の「編み物クラブ」に通う未来は未定!高校3年生の冬ものがたり。

 

 

「ネンレイズム」は年齢、「開かれた食器棚」は出産について、 社会を通して自然と刷り込まれてしまった「常識」を疑問視してくれる、素敵な小説でした。

 

特に「ネンレイズム」の主人公、村崎紫ちゃんは、山崎ナオコーラさんにしか書けない可愛さが出ていて、この子が編み物を通してお年寄りとやり取りするシーンがとても良い。彼女がどんな大人になるのか気になったし、いつか続編を書いて欲しいです。

 

ただ、少し難を言うと、小説のなかに、作者が本当に伝えたいだろうことが上手く溶けこんでいなくて、違和感を感じるシーンがありました。

例えば高齢出産について書かれているところ。キャラクターが思っていること、というよりも、作者自身の主張のように感じられて、少し冷めてしまったし、そこだけが残念に思いました。

 

ネンレイズム/開かれた食器棚