ロアルド・ダール 『マチルダは小さな大天才』
『チョコレート工場の秘密』の原作者、ロアルド・ダール 。恩田陸が「初めて作者を意識した作家」とエッセイで書かれているのを読んでずっと気になっていたので手に取りました。
この物語の主人公マチルダは、とても頭の良い女の子です。
一歳半でなめらかにしゃべるようになり、三歳になる頃には字を覚え、四歳になる頃には本を読みたいという欲求を持つようになります。
ごく普通の親ならば、自分の子供の天才ぶりを喜び、サポートするものですが、マチルダの両親はマチルダを「かさぶた」や「できもの」のように扱うだけで、マチルダが天才であることにも無関心です。
「パパ、わたしに本を買ってくれない?」とマチルダは言った。
「本だと?なんだって本なんか、ほしいんだ?」と、父親は言った。
「読むためよ、パパ」
「テレビじゃ気に入らないというのか、え?うちには十二インチ・スクリーンのすてきなテレビがある。それなのに、本を買ってくれるとは!あまったれたことを言うのも、いいかげんにしろよ!」
両親は、一貫して「頭の良い娘マチルダ」を受け入れません。
マチルダの父親は悪知恵を仕事に活かし、詐欺まがいな方法で財を成した実業家。母親は「ブックス(読書)よりルックス(外見)」の精神で生きて旦那をゲットするような人。
辛いのは、両親が長男マイケルのほうは跡取りとしてそれなりに可愛がっていることで、どうしてもマチルダとの扱いの差を感じてしまいました。
ストーリーは、マチルダが父親や校長先生に攻撃というか、ある種のしっぺ返しを食らわせる方向にすすんでいきます。
この方法がなかなかえげつなくて、ネタバレになるので書きませんが、「そこまでしなくても…」と正直思いました。
ただ、マチルダが自分にされたことに対してそこまで報復しないと折り合いをつけれない精神状態だったと思うと悲しくてなにも言えません。
後半マチルダはある特殊能力を身につけますが、いくら天才でもまだ家族の元でしか生きられない小さなマチルダにとってそれが大きな武器となり、悪と戦うクライマックスはとても痛快です。
「家族に受け入れてもらえないマチルダが家族以外の大人や同級生に受け入れてもらうことで自分の居場所を確立するお話」であると同時に、 大人だけが頑張ってるんじゃない。子供は子供なりに理不尽なこと、辛いことがたくさんある。子供だからこそ、世の中がいろんな逃げ道を作ってあげないといけない。
そんな当たり前なことに気づかせてくれる、最高にクールな児童文学でした。
マチルダは小さな大天才 (ロアルド・ダールコレクション 16)
- 作者: ロアルドダール,クェンティンブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,宮下嶺夫
- 出版社/メーカー: 評論社
- 発売日: 2005/10/01
- メディア: 単行本
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