江國香織『江國香織とっておき作品集』
江國香織の初期作品が読みたいと思い手に取りました。
特に心に残ったのは下記二作品。
香織の記録
父・江國滋氏が残した、娘・香織な誕生から6歳までを記録したもの。
週間雑誌の記者だった江國氏。娘の成長を書き留めながら、自身の環境の変化(途中でフリーになられたのですね)もあわせて書かれています。
作家・江國香織がどのように生まれたかがわかる貴重な資料です。
香織は、いつでも、常に自由にのびのびと大きくなるのだから、香織は、どんな時でも何にも心配することはないのだ。
実の父親にこんな魔法のような言葉を残してもらった江國さんがうらやましいです。
夕闇の川のざくろ
語り手である「私」から見た、「しおん」という少し変わった女の子にまつわる短い小説。
幼稚園から知る「私」によると、しおんは「嘘ばかりついているのに印象として無口、無口なのに、否定の言葉だけは誰よりもはっきり口にする」、まあ、相当嫌われ者だと見受けられますが、不思議な魅力のある子です。
「人なんてもともとほんとじゃないのよ」
しおんは「私」に繰り返し語りかけます。「物語の中にしか真実は存在しない」と。
それなのに、繰り返し語られるエピソードが少しずつ形を変えて『夕闇の川のざくろ』の物語自体の信憑性がゆらいでいきます。
物語の語り手である「私」が、実は嘘つきなのでは?
つまり、「私」=「しおん」なのでは?
しおんはとても孤独です。冬の空とおなじくらい、もしくはプラスチックのコップとおなじくらい孤独です。
それに気づいたとき、この小説がとても悲しい物語に見えてくるのです。