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本のあらすじ、感想を書き留めるブログ

桜木紫乃『砂上』

男にも金にも見放された女の前に現れたのは、 冷徹な編集者だった――。

空が色をなくした冬の北海道・江別。柊令央は、ビストロ勤務で得る数万円の月収と、元夫から振り込まれる慰謝料で細々と暮らしていた。いつか作家になりたい。そう思ってきたものの、夢に近づく日はこないまま、気づけば四十代に突入していた。ある日、令央の前に一人の編集者が現れる。「あなた今後、なにがしたいんですか」。責めるように問う小川乙三との出会いを機に、令央は母が墓場へと持っていったある秘密を書く決心をする。だがそれは、母親との暮らしを、そして他人任せだった自分のこれまでを直視する日々の始まりだった。

これは本当にフィクションなのか――。
現実と虚構が交錯する傑作長編!

 

主人公は40代の女性、柊令央。自己満足的な小説を書いては投稿を繰り返し、同級生が営むビストロで働きながら得る少ない収入と、離婚した夫から得た慰謝料で暮らしています。

 

また、彼女の16歳下の妹はカラオケ屋の店長で、文学の世界に逃避する令央に嫌悪感を抱いています。

 

『喧嘩してたのはママとあたしだったけど、あたしのイライラの原因はたいがいが自分だけお花畑から動かない令央だった。無神経ってこういう女のことを言うんだって思ってたよ』

 この作品に出てくる女性達は、終始厳しい言葉で令央を傷つけますが、特に令央の元に現れ、自分だけのために小説を書かせる編集者、小川乙三のキャラクターは強烈で、浴びせてくる言葉は「暴言」「罵倒」に近い。

ただ、小説を書くために、別れた旦那や、過去の自分、家族と対峙する令央がどんどん強くなっていく過程は、読んでいて気持ちがよかったです。

 

「人間が描けている」という言葉は、小説を褒める時によく使われるけれど、この作品を読んで、真っ先にそう思いました。

 

 

砂上

砂上