CLEAN YURU BOOK

本のあらすじ、感想を書き留めるブログ

近藤聡乃『A子さんの恋人』

 


主人公「A子」は漫画家。

学生の頃からつきあっていた「A太郎」に別れを切り出せないままニューヨークへ留学するが、そんな状態にも関わらず、ニューヨークでも新しく恋人(「A君」)を作ってしまう。

物語はA子がニューヨークから3年ぶりに帰国するところからスタートします。

 

A子が自身の恋愛にどうけりをつけるか?がこの漫画の主要テーマですが、なかなかこれがうまく進みません。納得のいくまで考えて結論を出さないと気がすまないのに問題を先送りにしてしまうA子の性格のせいです。

そもそもA子がニューヨークに帰国することになったのも、A君から受けたプロポーズの答えを悩んでいるうちにビザの更新を忘れていたからで、救いようがありません。

 
『A子さんの恋人』を読んで、私は「恋愛の形」は人それぞれ、多様に存在することを学びました。「優しいから」「なんとなく好きだから」「適齢期だから」「阿佐ヶ谷で一番の美人だから」「自分のことをそんなに好きじゃなさそうだから」「頭が悪そうだから」。登場人物達はいろんな理由で人を好きになります。

ある人からは欠点でしかないところも、別の人から見れば恋愛に発展する大きなポイントになり得るし、逆もありえることを、彼らは私に教えてくれます。

 
「性格が悪い」と何度も自称するA子達が繰り広げる恋愛模様はややこしい。でもそれが癖になるのです。

 

 

桜木紫乃『砂上』

男にも金にも見放された女の前に現れたのは、 冷徹な編集者だった――。

空が色をなくした冬の北海道・江別。柊令央は、ビストロ勤務で得る数万円の月収と、元夫から振り込まれる慰謝料で細々と暮らしていた。いつか作家になりたい。そう思ってきたものの、夢に近づく日はこないまま、気づけば四十代に突入していた。ある日、令央の前に一人の編集者が現れる。「あなた今後、なにがしたいんですか」。責めるように問う小川乙三との出会いを機に、令央は母が墓場へと持っていったある秘密を書く決心をする。だがそれは、母親との暮らしを、そして他人任せだった自分のこれまでを直視する日々の始まりだった。

これは本当にフィクションなのか――。
現実と虚構が交錯する傑作長編!

 

主人公は40代の女性、柊令央。自己満足的な小説を書いては投稿を繰り返し、同級生が営むビストロで働きながら得る少ない収入と、離婚した夫から得た慰謝料で暮らしています。

 

また、彼女の16歳下の妹はカラオケ屋の店長で、文学の世界に逃避する令央に嫌悪感を抱いています。

 

『喧嘩してたのはママとあたしだったけど、あたしのイライラの原因はたいがいが自分だけお花畑から動かない令央だった。無神経ってこういう女のことを言うんだって思ってたよ』

 この作品に出てくる女性達は、終始厳しい言葉で令央を傷つけますが、特に令央の元に現れ、自分だけのために小説を書かせる編集者、小川乙三のキャラクターは強烈で、浴びせてくる言葉は「暴言」「罵倒」に近い。

ただ、小説を書くために、別れた旦那や、過去の自分、家族と対峙する令央がどんどん強くなっていく過程は、読んでいて気持ちがよかったです。

 

「人間が描けている」という言葉は、小説を褒める時によく使われるけれど、この作品を読んで、真っ先にそう思いました。

 

 

砂上

砂上

 

 



杏&大倉眞一郎『お好みの本、あります。』

今までにない出会いが見つかる! 女優・杏と旅人・大倉眞一郎。2人が紹介してきた1000冊あまりの本から厳選した50冊を紹介。小説、ノンフィクション、絵本、マンガ……。面白い本はベストセラーだけじゃない! ユニークな魅力たっぷりのセレクトに、思わず読んでみたくなる。10年続く大人気ラジオ番組「BOOK BAR」が待望の書籍化。

 

年の離れた二人が、オススメの本を紹介しあうラジオ番組の書籍化。

 

バランスの取れたコンビの気楽なおしゃべりに身を任せる気持ちになりながら、楽しく読めました。

 

それにしても驚いたのが、杏さんの博識なこと…!歴女だということは把握していましたが、本のチョイスが渋い。歴史小説だけでなく、食べ物系エッセイや海外のノンフィクション、辞典なんかもあって、興味の幅が本当に広いと思ったし、相方の大倉眞一郎さんの方が純文学が多くて意外に思いました。

 

 

BOOK BAR: お好みの本、あります。

BOOK BAR: お好みの本、あります。

 

 

 

恩田陸『訪問者』

山中にひっそりとたたずむ古い洋館―。三年前、近くの湖で不審死を遂げた実業家朝霞千沙子が建てたその館に、朝霞家の一族が集まっていた。千沙子に育てられた映画監督峠昌彦が急死したためであった。晩餐の席で昌彦の遺言が公開される。「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」孤児だったはずの昌彦の実父がこの中にいる?一同に疑惑が芽生える中、闇を切り裂く悲鳴が!冬雷の鳴る屋外で見知らぬ男の死体が発見される。数日前、館には「訪問者に気を付けろ」という不気味な警告文が届いていた…。果たして「訪問者」とは誰か?千沙子と昌彦の死の謎とは?そして、長く不安な一夜が始まるが、その時、来客を告げるベルが鳴った―。嵐に閉ざされた山荘を舞台に、至高のストーリー・テラーが贈る傑作ミステリー。

恩田陸の書くミステリのなかでも比較的ベーシックなクローズド・サークルもの。Amazonレビューの評価はいまいちだけど、個人的には読みやすかったですし、謎として挙げられていたものもすべて解決できていたのではないでしょうか。

 

あと読んでて思い出したのが『木曜組曲』の空気感で、あくまで一冊の作品としてコンパクトに収まっている上品なミステリが好きな方にオススメします。

逆にコテコテの恩田陸の世界(『三月は紅の淵を』とか『六番目の小夜子』とか)が好きな方には物足りないかもしれない。

 

探偵役の小野寺が魅力的な子で、この作品にしか出てこないのが残念です。

『月の裏側』の多聞さんみたいにシリーズ化してほしい。

 

 

訪問者 (祥伝社文庫)

訪問者 (祥伝社文庫)

 

 

 

恩田陸『猫と針』

同窓生男女5人が葬式帰りに集まった。小宴がはじまり、四方山話に花が咲くが、どこかぎこちない面々。誰かが席を外すと、残りの仲間は、憶測をめぐらし不在の人物について語り合う。やがて話題は、高校時代の不可解な事件へと及んだ…。15年前の事件の真相とは?そしてこの宴の本当の目的は?著者が初めて挑んだ密室心理サスペンス劇。

 

 

登場人物が男女5人だけの戯曲なんだけど、名前がみんな平凡(サトウ、タナカ、スズキ、タカハシ、ヤマダ)で、始めは見分けがつかず読みにくいと思いました。

ただ、第1場、第2場と進めていくと、キャラクターの輪郭がつかめてきて気にならなくなったし、さすがの恩田陸。しっかり面白かったです。

 

「その場にいない人の話をする」話と口上であるように、会話が見どころであるこの作品。『木曜組曲』が好きな方にオススメします。

 

猫と針(新潮文庫)

猫と針(新潮文庫)

 

 

 

又吉直樹『夜を乗り越える』

芸人で、芥川賞作家の又吉直樹が、少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」「人間とは何か」を考える。また、大ベストセラーとなった芥川賞受賞作『火花』の創作秘話を初公開するとともに、自らの著作についてそれぞれの想いを明かしていく。「負のキャラクター」を演じ続けていた少年が、文学に出会い、助けられ、いかに様々な夜を乗り越え生きてきたかを顧みる、著者初の新書。

 

アメトーークの読書芸人で又吉を見て興味を持ち、読み始めました。

 

なぜ本を読むのか?どう本を楽しめばいいのか?が真摯に書かれていて参考になります。

こんなに思慮深い人だったのか…、とちょっとびっくりしました。

『火花』も読んでみたいです。

 

夜を乗り越える(小学館よしもと新書)

夜を乗り越える(小学館よしもと新書)

 

 

 

 

恩田陸『タマゴマジック』

空から謎の卵が降り、赤い犬が宙に浮かぶ―。東北の中心・S市で起きた奇怪な出来事。 宇宙人襲来か、はたまた都市伝説か?恩田ワールドが東北で炸裂する。 仙台出身の著者が放つミステリー集 震災後の都市の苦悩を描く書き下ろし『魔術師2016』も収録。

 

関根家のシリーズ最新作、というだけで、恩田陸ファンからすればはずせない一冊だと思います。

 

元判事の関根多佳雄と、長男で現職判事の関根春が、S市(おそらく仙台市)で起きた謎を解き明かすミステリーですが、冒頭の「魔術師一九九九」から、間に「ブリキの卵」、「この世は少し不思議」を挟み、「魔術師二〇一六」で締めるという不思議な構成になっています。そもそも、それぞれの作品はまったく別の媒体に連載されていたのに、内容がシンクロしていると感じてまとめることにした、という経緯が冒険的ですごいです。

 

都市伝説というのは昔からあって、口裂け女だったり、「ファーストフードは猫の肉からできている」という噂だったり、内容は様々だけれど、どれも根本に存在するのは人間の不安な気持ちです。

S市に広まった数々の噂や都市伝説も、根本的には2011年に起きた震災が関係すると、この本は投げかけてきます。

あのとき、私達はとても非現実的で嘘見たいな事象に立ち会いました。けれど、残念なことに起きたことはすべて現実です。

そうすると、「ブリキの卵」というファンタジー的な小説に、あえて「この世は少し不思議」というエッセイを間に挟んだのもなんだか頷けるような気がするのです。

 

 

タマゴマジック

タマゴマジック