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本のあらすじ、感想を書き留めるブログ

恩田陸『タマゴマジック』

空から謎の卵が降り、赤い犬が宙に浮かぶ―。東北の中心・S市で起きた奇怪な出来事。 宇宙人襲来か、はたまた都市伝説か?恩田ワールドが東北で炸裂する。 仙台出身の著者が放つミステリー集 震災後の都市の苦悩を描く書き下ろし『魔術師2016』も収録。

 

関根家のシリーズ最新作、というだけで、恩田陸ファンからすればはずせない一冊だと思います。

 

元判事の関根多佳雄と、長男で現職判事の関根春が、S市(おそらく仙台市)で起きた謎を解き明かすミステリーですが、冒頭の「魔術師一九九九」から、間に「ブリキの卵」、「この世は少し不思議」を挟み、「魔術師二〇一六」で締めるという不思議な構成になっています。そもそも、それぞれの作品はまったく別の媒体に連載されていたのに、内容がシンクロしていると感じてまとめることにした、という経緯が冒険的ですごいです。

 

都市伝説というのは昔からあって、口裂け女だったり、「ファーストフードは猫の肉からできている」という噂だったり、内容は様々だけれど、どれも根本に存在するのは人間の不安な気持ちです。

S市に広まった数々の噂や都市伝説も、根本的には2011年に起きた震災が関係すると、この本は投げかけてきます。

あのとき、私達はとても非現実的で嘘見たいな事象に立ち会いました。けれど、残念なことに起きたことはすべて現実です。

そうすると、「ブリキの卵」というファンタジー的な小説に、あえて「この世は少し不思議」というエッセイを間に挟んだのもなんだか頷けるような気がするのです。

 

 

タマゴマジック

タマゴマジック

 

 

 

吉田篤弘『京都で考えた』

答えはいつもふたつある。

 吉田篤弘が、京都の街を歩きながら「本当にそうか?」と考えたこと。

 この街で考えたことを、これまでに何冊かの本に書いてきた。ただ、それらのほとんどは小説だったので、物語のどの部分が京都で考えたことであるかは判らない。いまこうして書き始めたこの本は小説ではなく、京都で考えたことをありのままに書こうという本である。――本文より(Amazonより)

 

 

私は京都出身で、住んでいるときは何も思いませんでしたが、年に数回帰省すると、他の県にはない空気を感じます。お寺や神社の佇まいであったり、山に囲まれた土地特有の気温の変化だったり、説明がつくものとつかないものが共存している。京都というのは、そういう街なんです。

吉田篤弘さんの書く小説は、読むとどこか日常の上に非日常のオブラートを重ねたような、不思議な気持ちにいつもさせられますが、京都からインスピレーションを得ているとこの本で語られていて、合点がいったのでした。

 

 

京都で考えた

京都で考えた

 

 



 

 

 

かつくら編集部『あの頃のBLの話をしよう [BLインタビュー集]』

熱に浮かされたようにBLを書き、作り、読んでいた私たち――
ボーイズラブという言葉が生まれたあの頃。
激変する業界の渦中にあった作家・編集者が語る、それぞれのBLファーストインパクト!

いまや当たりまえのように存在しているBL[ボーイズラブ]というジャンルにも
先行きなど何もわからなかった幼年期があり
作り手も受け手も熱に浮かされたように駆け続けた時期があった。
あの頃、作家はどのような衝撃を受け、あるいは情熱を持ってBLを創作したのか。
編集者は創作者や読者の思いをどうやって受け止めたのか。
稀有な作品を生み出し、他ジャンルでも活躍する才能を多く輩出するまでになった
BLというジャンルの黎明期を、渦中にあった作家、編集者が語りつくすBLインタビュー集!

(Amazonより)

 

 

よしながふみさん、 こだか和麻さんは、BLをそれなりに読む30オーバーの女なら一度は通ったことのある作家ではないでしょうか。

この本は漫画家だけでなく、BL黎明期に活躍した編集者にもインタビューしていて、興味深く読むことができました。

 

BLを描くエネルギー、BLを作るエネルギーに圧倒される一冊です。

 

 

あの頃のBLの話をしよう [BLインタビュー集]

あの頃のBLの話をしよう [BLインタビュー集]

 

 

 

きたみりゅうじ『夜明けに向かってコアダンプ』

偉人・変人が語り継がれるIT業界。でも、多くの人はごく平凡に、ごく普通の人々と、日々の仕事に追われています。じゃあそこには何のドラマもないのか?…これがそうでもない。
ささやかだからこそ「あるあるあるあるある」と首を縦にブンブン振っちゃうような体験談が埋まっています。「普通の人々による、様々な好プレーや珍プレー」を、4コマまんがを交えて紹介しよう。そんなWeb連載『きたみりゅうじの聞かせて珍プレー』(gihyo.jp掲載)が、一冊の本になりました。
ごくありふれた――だからこそ身近に感じる――投稿の数々。是非お楽しみいただければ幸いです。

(Amazonより)

 読者からの投稿によるエンジニアあるあるエピソードを漫画にした本。

私自身プログラマなので、いろいろ身につまされました。

新人の時って、予想もつかないような失敗をするよね…。

小説ばかりでなく、IT業界を取り扱った本も読まなければならないと思っていましたが、この本はとてもとっつきやすかったです。

 

 

 

山崎ナオコーラ『ネンレイズム/開かれた食器棚』

“おばあさん”になりたい、自称68歳の村崎さん、未来でなく“今”を生きたい紫さん、“徐々に”年をとりたいスカート男子・加藤くん。町の公民館の「編み物クラブ」に通う未来は未定!高校3年生の冬ものがたり。

 

 

「ネンレイズム」は年齢、「開かれた食器棚」は出産について、 社会を通して自然と刷り込まれてしまった「常識」を疑問視してくれる、素敵な小説でした。

 

特に「ネンレイズム」の主人公、村崎紫ちゃんは、山崎ナオコーラさんにしか書けない可愛さが出ていて、この子が編み物を通してお年寄りとやり取りするシーンがとても良い。彼女がどんな大人になるのか気になったし、いつか続編を書いて欲しいです。

 

ただ、少し難を言うと、小説のなかに、作者が本当に伝えたいだろうことが上手く溶けこんでいなくて、違和感を感じるシーンがありました。

例えば高齢出産について書かれているところ。キャラクターが思っていること、というよりも、作者自身の主張のように感じられて、少し冷めてしまったし、そこだけが残念に思いました。

 

ネンレイズム/開かれた食器棚
 

 

 

山崎ナオコーラ『ボーイミーツガールの極端なもの』

管理栄養士を目指す大学生は野球選手との結婚に憧れ、
子育てを終えた中年の女性がファッションデザイナーと巡り合う。
引きこもりニート松田聖子に恋慕し、
その弟は誰に対しても自分から「さようなら」を切り出せず、
兄弟の父親は妻と再会する。
人と接するのが苦手な少女は思いがけず人気アイドルになって、
アイドルの付き人は嫉妬に苦しみ、
三流俳優は枕を濡らす。
植物屋の店主は今日も時間を忘れてサボテン愛に耽る。

年齢も性別も境遇も異なる男女が出会い、恋をし、時には別れを経験する。
「絶対的な恋なんてない」
不格好でも歪でもいい、人それぞれの恋愛の方法を肯定する連作小説集。

人気多肉植物店・叢Qusamuraの店主・小田康平が植物監修を務める。

(Amazonより)

 

山崎ナオコーラさんは、デビュー作『人のセックスを笑うな』で王道といえる「ボーイミーツガール」物の作品を書いたけれど、本作は、「ボーイミーツガール」の枠に収まらない、「極端」な恋愛がたくさん描かれています。

 

各作品の語り手は全員違いますが、サボテンを通して世界観がゆるーくつながっていて、登場人物の意外なその後がわかるのも楽しめました。

 

サボテンに沢山の品種が存在するように、人の数だけ恋愛の形が存在する。

そんな当たり前なことに気づかせてくれる素敵な作品集です。

 

 

ボーイミーツガールの極端なもの

ボーイミーツガールの極端なもの

 

 

 

 

山崎ナオコーラ『かわいい夫』

日々の暮らし。父との死別。流産。ふたたびの妊娠。
さまざまな出来事をとおして、 浮かび上がってくる、あたらしい結婚の形。
変化していく、作家のこころ。
毎日、少しずつ読みたくなる、結婚エッセイ集。
装画、みつはしちかこ
本書には、西日本新聞に連載されていたエッセイが44本、書き下ろしエッセイが48本収録されています。

(Amazonより抜粋)

 

『指先からソーダ』というエッセイを読んだのは随分前でしたが、山崎ナオコーラさんを取り巻く環境が大きく変化していることがわかります。

デビューして10年。文学賞は取れないし、本も売れない。どこで自分のモチベーションを保てばいいのか悩まれていたことも、この本では素直に語られていました。

 

また、書店員の旦那様や、頑固だけれど憎めない父親について書かれた文章は愛に満ちていて、読者を幸せな気持ちにさせてくれます。

 

一番好きな本かもしれません。

 

かわいい夫

かわいい夫