村上春樹・川上未映子『みみずくは黄昏に飛び立つ』
【内容】
川上未映子から村上春樹への、11時間にのぼる超ロングインタビュー集。
最新作『騎士団長殺し』の誕生秘話だけでなく、小説を書くことの方法や極意、自身が得た名声や今後について、これでもかと語りつくす、完全保存版
後書きで、思わず村上春樹が「冷や汗をかいてしまうこともしばしばだった」と書いてしまうくらい、鋭い質問がバンバン投げられます。
まずフェミニズムについて、一部抜粋。
川上「女の人が性的な役割を全うしていくだけの存在になってしまうことが多いということなんです。物語とか、男性とか井戸とか、そういったものに対しては、ものすごく惜しみなく注がれている想像力が、女の人との関係においては発揮されていない。女の人は、女の人自体として存在できない。」
(P246)
あの村上春樹にここまで突っ込んだ質問をよくできるな、と思いますが、村上春樹自体は割と冷静に「そう言われてみればそうかもしれない」「たまたまのことじゃないかな」と返しつつ、悪気はないという姿勢を貫いていたので、読者の私からすれば、「とぼけやがって〜(イライラ)」という感じでした。
他にも「『俺もこんな世界的な作家になったわー』みたいな実感はどうですか?」とか、「『俺ってやっぱすごかったんだなー、とくべつだったんだなー』みたいな気持ち、ない?これはありますでしょ、少しくらい笑」みたいな質問までしていて、正直笑えたし、川上未映子さんの人柄なのか、性格なのか、随所で鋭いことを聞いているはずなのにカドがたってなくて、とても読み応えのあるインタビュー集になっています。
湊かなえ『リバース』
【あらすじ】
主人公、深瀬和久は事務機器の営業を仕事とするさえないサラリーマン。唯一の特技は美味しいコーヒーを淹れること。行きつけの喫茶店で越智美穂子という女性と出会い日常に華が咲きはじめた矢先にある出来事が起こる。
『深瀬和久は人殺しだ』と書かれた告発文が彼女のもとへ届いたのだ。手紙を突きつけられた深瀬は、ある過去の出来事を話すことになる。
深瀬にとって、唯一の親友であり、大学の同期だった広沢由樹という男の死について。
いくつもの不幸な偶然と少しの悪意が重なった事故だった。少なくとも深瀬はそう思っていた。
しかし、今更三年前の出来事を掘り起こそうとしている人間がいる。旅行の参加者の中に、広沢を殺した人間がいるのではないかと、疑っている人間がいる。
どうにか事件を解決しようと動く深瀬に突きつけられる衝撃の事実、そして最後に明かされるどんでん返しとは?
藤原竜也主演でドラマ化された作品の原作。
ドラマを4話まで観た時点で先が気になりすぎて手にとってしまった。
藤原竜也が主演という時点でこの作品は何か起こりそうだと疑っていたけれど、読んで納得。
解説にも書いてあったけど、作者は編集部からお題を提示されて、結末から話を作り上げたみたいですね。
読者を最後にあっと言わせることには成功できていると思いますし、さすが人気作家だな、と言わざるを得ませんでした。
強いて難をいえば、この物語の鍵は、死んだ広瀬由樹がどういう人間だったのか?という点だけれど、少し書ききれていないなと感じました。
というのも、周囲の人間が「彼はこういう人間だった」「彼だったらこう思っていただろう」と第三者から語る広沢は沢山書かれていたけれど、結局彼自身が何かを語るシーンはほぼなかったから。
良くいえばミステリアス、悪くいえば何を考えているかわからないぼんやりしたキャラクターで終わってしまった。
といっても総じて面白かったです。
若林正恭:編『ご本、出しときますね?』
【内容】
小説家って面白い!
無類の本好き芸人・オードリー若林正恭と、20人の作家たちが、「自分のルール」を語りつくす。BSジャパンで放送された大人気番組の書籍化。
(帯より)
小説家がテレビに出演する流れは昔からありましたが、基本的には「文化人」「元は別の職種の活動で有名だったけれど、作家デビューした人」の2つの層に分かれていました。
それが最近、「読書芸人が推薦する作家」という新たな枠組が作られ、世間に浸透しています。
読書芸人とは、バラエティ番組「アメトーク」で放送された、本が好きな芸人の特集で注目を浴びた人達で、主なメンバーは、又吉直樹、光浦靖子、若林正恭、カズレーザーなど。
彼らは芸人の傍ら小説やエッセイなどの文筆活動を続け、小説を紹介する活動を行なっています。
本書の番組に出演しているのは、以前から若林さんと交流のあった小説家達がメインなので、良い意味でどうでもいい話、くだけたトークばかりで気軽に読めましたし、普段作品でしか触れようのない小説家の意外な生体が垣間見れて面白かったです。
石田衣良『REVERSE リバース』
【あらすじ】
ファッション関係の輸入商社で働く千晶と、 IT企業でHP制作の仕事をしている秀紀。性別を偽った状態で、ネットで知り合った二人は、相手を同性と思いながらも心惹かれていく。
元彼からのアプローチ、打算的に言い寄ってくる同僚、のし掛かってくる仕事のプレッシャー。
数々の苦難を乗り越えて二人が見出した答えは、男女のつきあい方の新しいあり方を提示してくれる。イマドキの恋愛小説。
千晶と秀紀、お互いの視点で数ページずつ交互に物語が進んでいくのですが、ドラマ用に書き下ろしたんですか?と勘違いするくらい映像化向きだと思いました。
なんといってもキャラクター。
・バリキャリウーマンの千晶
・ぱっと見冴えないけど隠れモテ男の秀紀
・妹気質で気立てのいい千晶の後輩
・出版社で編集長を務める千晶の元カレ
・女子力は高いけれど打算的な秀紀の同僚
・お局気質な副社長
・ゲイと噂の新進気鋭の若手俳優
挙げてみましたが、テレビ用にキャスティングしてくださいと言わんばかりではないでしょうか。
読んですぐ「逃げ恥」キャストを当てはめてしまったし、星野源とガッキーが性別を偽ってメールのやり取りをするシーンがパッと浮かびましたよ。
良い脚本家、スタッフに恵まれれば大ヒット間違いなしの名作ができるんじゃないかと、思わず夢が膨らみました。
ただ小説としては、テーマを活かしきれていないし、消化不良な部分もあってもったいないんですよね…。
息抜きに読む感覚で楽しめました。
石田衣良『坂の下の湖』
【内容】
フリーマガジン「R25」にて連載されたコラムをまとめた本。政治、経済、仕事、結婚、趣味など、石田衣良がポジティブな視線でぶった切る。2008〜2010年分をまとめたエッセイ第3弾。
20代後半から30代前半の働く男性読者を対象にしたフリーマガジンに連載されたもの。テーマは結構固めだけれど、作者の人間性ゆえか、気軽に読めました。
掲載時期がちょうどリーマンショック前後で、若者がもろに不況のあおりを受けて落ち込んでいた時代。本書での作者の主張は「不況とか関係ない。自由に生きろ」と一貫していて小気味良いっちゃ良いし、すがすがしいです。
ノリが「軽薄なおじさん」という感じ。
こんな上司は、欲しいような欲しくないような…。
松浦理英子『最愛の子ども』
【あらすじ】
<パパ>日夏、<ママ>真汐、<王子>空穂。
女子高生三人が作り上げる疑似家族と、それを愛でる「わたしたち」。
不思議な三角関係が築き、そして壊れるまでを描く、著者4年ぶりの傑作長編。
松浦理英子さんは本当に寡作な方で、長いキャリアの割に新作がなかなか出て来なくてやきもきするのですが、いつも新しいことにチャレンジし、ハズレが一作もないという恐るべき作家です。
今回も、「わたしたち」という不特定多数の語り手が、真実か虚実かわからないエピソードを積み重ねるという変わった手法でとても読み応えがありましたし、同性愛の一言で済ませられない少女達の関係性に、心臓を搔きむしられました。
こんな奇跡のような一冊を読めるなら、いくらでも待ちますという気持ちでいっぱいです。
かんべみのり『入社1年目からのロジカルシンキングの基本』
【内容】
本書の主人公は、「ヤングかんべちゃん」。
20代をフリーター、海外放浪をしながら過ごし、キャリアのことはあまりちゃんと考えていませんでしたが、28歳のときに初めてあるイベント運営会社の正社員として採用されます。
最初の仕事はニッポン元気エキスポというイベントの企画運営。
キックオフミーティング、企画書作成、課題策定からの解決策立案、報・連・相…。仕事を進める上で立ちはだかる問題をバリバリキャリアウーマンの水谷さんと解決していきます。
この本のポイントは、作者の伝えたいことがすべて「ヤングかんべちゃん」が進めているイベント運営準備に置き換えられていること。
フレームワークやマトリクスの考え方など、言葉だけではとっつきにくいですが、具体的な使用例が描かれているのでイメージが湧きやすく、とても分かりやすいと思いました。
すべてを鵜呑みにする必要はないですが、キャリアや仕事のポイントを考えるきっかけのひとつとして、レベルアップしたい社会人の方にオススメです。