石田衣良『REVERSE リバース』
【あらすじ】
ファッション関係の輸入商社で働く千晶と、 IT企業でHP制作の仕事をしている秀紀。性別を偽った状態で、ネットで知り合った二人は、相手を同性と思いながらも心惹かれていく。
元彼からのアプローチ、打算的に言い寄ってくる同僚、のし掛かってくる仕事のプレッシャー。
数々の苦難を乗り越えて二人が見出した答えは、男女のつきあい方の新しいあり方を提示してくれる。イマドキの恋愛小説。
千晶と秀紀、お互いの視点で数ページずつ交互に物語が進んでいくのですが、ドラマ用に書き下ろしたんですか?と勘違いするくらい映像化向きだと思いました。
なんといってもキャラクター。
・バリキャリウーマンの千晶
・ぱっと見冴えないけど隠れモテ男の秀紀
・妹気質で気立てのいい千晶の後輩
・出版社で編集長を務める千晶の元カレ
・女子力は高いけれど打算的な秀紀の同僚
・お局気質な副社長
・ゲイと噂の新進気鋭の若手俳優
挙げてみましたが、テレビ用にキャスティングしてくださいと言わんばかりではないでしょうか。
読んですぐ「逃げ恥」キャストを当てはめてしまったし、星野源とガッキーが性別を偽ってメールのやり取りをするシーンがパッと浮かびましたよ。
良い脚本家、スタッフに恵まれれば大ヒット間違いなしの名作ができるんじゃないかと、思わず夢が膨らみました。
ただ小説としては、テーマを活かしきれていないし、消化不良な部分もあってもったいないんですよね…。
息抜きに読む感覚で楽しめました。
石田衣良『坂の下の湖』
【内容】
フリーマガジン「R25」にて連載されたコラムをまとめた本。政治、経済、仕事、結婚、趣味など、石田衣良がポジティブな視線でぶった切る。2008〜2010年分をまとめたエッセイ第3弾。
20代後半から30代前半の働く男性読者を対象にしたフリーマガジンに連載されたもの。テーマは結構固めだけれど、作者の人間性ゆえか、気軽に読めました。
掲載時期がちょうどリーマンショック前後で、若者がもろに不況のあおりを受けて落ち込んでいた時代。本書での作者の主張は「不況とか関係ない。自由に生きろ」と一貫していて小気味良いっちゃ良いし、すがすがしいです。
ノリが「軽薄なおじさん」という感じ。
こんな上司は、欲しいような欲しくないような…。
松浦理英子『最愛の子ども』
【あらすじ】
<パパ>日夏、<ママ>真汐、<王子>空穂。
女子高生三人が作り上げる疑似家族と、それを愛でる「わたしたち」。
不思議な三角関係が築き、そして壊れるまでを描く、著者4年ぶりの傑作長編。
松浦理英子さんは本当に寡作な方で、長いキャリアの割に新作がなかなか出て来なくてやきもきするのですが、いつも新しいことにチャレンジし、ハズレが一作もないという恐るべき作家です。
今回も、「わたしたち」という不特定多数の語り手が、真実か虚実かわからないエピソードを積み重ねるという変わった手法でとても読み応えがありましたし、同性愛の一言で済ませられない少女達の関係性に、心臓を搔きむしられました。
こんな奇跡のような一冊を読めるなら、いくらでも待ちますという気持ちでいっぱいです。
かんべみのり『入社1年目からのロジカルシンキングの基本』
【内容】
本書の主人公は、「ヤングかんべちゃん」。
20代をフリーター、海外放浪をしながら過ごし、キャリアのことはあまりちゃんと考えていませんでしたが、28歳のときに初めてあるイベント運営会社の正社員として採用されます。
最初の仕事はニッポン元気エキスポというイベントの企画運営。
キックオフミーティング、企画書作成、課題策定からの解決策立案、報・連・相…。仕事を進める上で立ちはだかる問題をバリバリキャリアウーマンの水谷さんと解決していきます。
この本のポイントは、作者の伝えたいことがすべて「ヤングかんべちゃん」が進めているイベント運営準備に置き換えられていること。
フレームワークやマトリクスの考え方など、言葉だけではとっつきにくいですが、具体的な使用例が描かれているのでイメージが湧きやすく、とても分かりやすいと思いました。
すべてを鵜呑みにする必要はないですが、キャリアや仕事のポイントを考えるきっかけのひとつとして、レベルアップしたい社会人の方にオススメです。
伊藤朱里『稽古とプラリネ』
【あらすじ】29歳フリーライターの主人公は、雑誌のコラム連載のために女性の習い事を取材することに。
10年付き合っていた彼氏との別れ、親友へ感じてしまう劣等感、過去の苦い出来事との折り合いのつけ方…。主人公と同年代の読者に向けた「女子のリアル」の物語。
伊藤朱里さん、初めてでしたが、とにかく共感しっぱなしで楽しく読めました。
思い出したのが柚木麻子さんの『本屋さんのダイアナ』、『ナイルパーチの女子会』で、この辺が好きな方にはとてもオススメです。
気になったのは、女は年をとると若い世代を憎み、お局化するという考え方で、どうしても悪く描かれていたこと。
「女性には賞味期限があるから」というセリフが出てくるけど、結局救いがないじゃんと思ったし、もう少し掘り下げて欲しかったです。
オカヤイヅミ『おあとがよろしいようで』
「死ぬ前に食べたいものは何ですか?」という問いは、飲み会なんかでは割と定番の質問かもしれません。
例えば私の場合は梅干し入りのおにぎりとお味噌汁で、食べた後、眠りに落ちるように死ねたら幸せだなあとぼんやり考えていますが、そもそもこの本の作者、オカヤイヅミさんの場合、「死ぬの怖くなくなるものを食べたい」と言ってしまうほど、死の恐怖がベースにあるのでした。
本書は死恐怖症の作者が、15人の作家たちに「死ぬ前に食べたいものは何か」という問の答えを聞いてまわるコミックエッセイです。
彗星が落ちてくると仮定して、食欲がなくなることを見越した胃に優しいメニューを選択する人、純粋に自分の好物を食べる人、あえて食べたことのないものにチャレンジする人…。
皆さん回答が千差万別で、話は自分の死のシチュエーションにまで及びます。
死ぬ直前まで小説を書き続けるかという問いも、当たり前のように書くという人もいれば、「書かなくなったらフェードアウトしたい」と言ってる人もいて、思わず笑ってしまいました。
食べるのが好きということは、生きるのが好きということ。死ぬ前に食べたいものを考えるということは、生き続けたいと願うことなのかもしれません。